指輪

「お探し物ですか?」
宝飾品の店の指輪のコーナーの前で、じっと見入ってしまったからだろう。
いつのまにやらすぐ隣に店員が寄ってきていた。
「いや・・・・・・別に・・・」
そう言って、ヴィッターは急いでその場から逃げた。
ここはフロスト共和国。
敵国である。
“夫婦”として潜入する実験台として彼、冷淡なコールドヴィッターは部下と共にこの国へとやって来た。
偽装として、この敵地で何度も体を重ねた。
だが・・・・・・それも、もう限界だ。
規則にうるさく一つの違反も許さない冷淡なコールドヴィッター。
けれど。 しばらくして男はやっと立ち止まる。
そして、また歩き始めた。
彼女の心がわからない。
責務だからそれができるのか、それとも自分たちの間に愛があるのだと自惚れて良いのか。
空から白いものが降りだした。
ああ、今夜も冷えそうだ。
灰色の空の向こうには、何も見えない。
「あなた、どうしました?」
布団の中でフラウスが眠そうに目を擦りながら言う。
外では相変わらず雪が降っているようだった。
しんしんと、何も聞こえない。
「いや、なんでもない」
意識的に硬い声を出した。
すると隣からクスクスと可笑しそうな声が聞こえる。
「何が可笑しい」
「さぁ?」
もう“夫婦”をしてしばらく経つが、やはりこの女の奥底は見えない。
いつもにこにこして、子供のようで。
彼女が抱きついてきて、優しい体温が己に伝わってくる。
何処まで任務で、何処から本気なのか
そんなことがわからない。
これが、男女のソレというものなのか。
「眉間にシワが寄ってますよ」
こうしている時間は、幸せだ。
ただ何も考えず、彼女との時間を過ごせばいい。
だが、後になってそれが重い重い荷となる。
任務などという理由で、彼女と体を重ねること。
偽りの団欒。
作り物の安らぎ。
冷淡コールドが、聞いて笑う。
自分は、いつの間にか本当に彼女を……愛してしまっていたのだから。
「……もう、寝よう。
明日は早い」
それが深くなる程に、荷も重みを増して行く。
心が先か、体が先か。
そんなことはわからない。
最初は確か可笑しな女という印象だったはずだった。
その時言われたものだ。
「安心した」と。
後で調べてみると、彼女は父親を数年前に亡くしていた。
逃げた捕虜が市民を人質にし、本当なら撃てる所を情をかけて殺されている。
その時は意味がわからなかったが、だがそれで彼女は自分に好意を抱いてくれているようだった。
そして次第に、彼女も自分と同じ気持ちなのではないかと思うようになっていった。
「その指輪を、もらえないか」
気付くとあの宝飾店にいた。
「プレゼントですか?」
「ああ」
この時、思えば拒絶された時のことをほんとんど考えていなかったように彼は思う。
彼女の瞳と同じ、深い蒼の石と銀でできた指輪。
ただ、その未来を見ていた。
「プレゼントをされる方は、とても大切な方なんですね」
店員が不意に口を開いた。
「わかるのか」
「ええ、優しい顔をしていらっしゃいますもの」
君は受け取ってくれるだろうか。
どんな顔で、どんな声で。
そんなことを考えながら、彼は店を後にした。
彼女は、この指輪を受け取ってくれるだろうか。
そんなことを考えながら。


そのうち補完するような話書きたい。
ちょっと意味不ですね……すみません。

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