光陰

ずっとずっと男の子は、男の子のままだと思ってた。
わたしの手に引かれていただけのあの頃からずいぶん時間が経ったというのに。
・・・・・・もしかしたら、あの時から立ち止まっていたのは私だったのかもしれない。

「あっ」
小石に躓いて、転びそうになる。
けれど、すぐにその手がわたしの腕をつかんだ。
「大丈夫か?ミカヤ」
「ええ、大丈夫よサザ」
実際、地面に体が着く前に彼が捕まえてくれたお陰で汚れすら付いていない。
それでもサザは埃を払い落すようにわたしの体をはたいた。
そして・・・ふと、サザがあることに気付いて・・・小さく呟く。
「・・・・・・こんなに、小さかったのか」
わたしは、彼の言葉にはっとして彼の顔を見上げた。
「ミカヤ?」
わたしが顔をまじまじと見るからかサザが不思議そうにに言う。
考えてみれば、当たり前のこと。
いつまでも男の子のままでいてくれるはずがない。
広い肩、逞しい腕、精悍な顔つき・・・・・・わたしの記憶の中の彼の姿とは全く違う青年が、そこにいた。
わたしはほとんど変わっていないというのに。
「どうしたんだ?ミカヤ」
サザのわたしを心配してくれる気持ちが伝わって来た。
昔は、心配するのも私の方だった。
そう思うと、今更彼サザと過ごした時間の長さを思い知らされる。
「・・・・・・ううん・・・なんでも、ないわ」
男の子は、男の子のままでいてくれない。
知らない間に大きくなって、いつの間にかわたしのずっと先を走って行く。
わたしは、ただそこに立って・・・・・・その背中を見送ることしかできないのだ。
「なんでもないようには見えないんだが」
「・・・大丈夫よ?
だから、心配しないで」
わたしは、サザに笑いかけた。
大丈夫だから、って。
でも次の瞬間、私はサザの腕の中にいた。
「・・・俺は、ずっとミカヤの傍にいるから」
「・・・・・・・・・・・・うん」
これからも、同じような思いを何度もするかもしれない。
いつか越えられない時間がわたしとあなたの距離をもっと離してしまう。
でも今は・・・・・・この言葉を大切にしたい。
サザがわたしの体をぎゅっと抱きしめる。
それに応えて、わたしも彼に腕をまわした。



最初はただ
「こんなに小さかったのか」
「(こんなに、大きかったんだ・・・)」
くらいに考えていたはずなのに・・・・・・・・・・・・あれ?
ずっと傍にいるんだから互いの大きさくらいわかるだろうと思われる方もいらっしゃるでしょうがそうでもないです。
私もこの間弟に「あ、こんなに小さいんだ」って言われました。
とはいえうちの姉弟だったら「ちーびちーび」「んだとゴルァ」という風にしかならないのですが。

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