約束

 時計の針が止まってしまったかのように世界は止まった。
あらゆる汚れは消え去り、人々は石と化した。
だがこれが本当に正しい姿なのか。
人は初めて女神に疑念を抱き、運命に抗う。

人を生み出し、人を正し、人を導く完璧な存在であったはずの、女神に。

「ま、そんな都合の良い存在がいたら
  俺も少しはマシな人生送れたよな」
ある町だった場所のはずれで相棒を撫でながら独り男が自嘲気味に笑う。
彼は女神ユンヌが部隊を三つに分けたうちの一つに属する人間だった。
彼、ハールはジルと共にアイクの下でシエネにある“導きの塔”を目指していた。
男は一つ欠伸をすると、遥かな空を見上げる。
幾度、己は裏切られたことだろう。
国という存在、女神という存在に何も期待はしていない。
元老院などが言うように女神がそのような完璧な存在であったならば、争いも政治の腐敗も何も起きていまい。
「・・・シハラム殿だって」
ハールの言葉に答えるかのように相棒が低く啼いた。
「・・・・・・そうだな。
考えてもしょうのない事だな・・・・・・それに・・・・・・」
「ハールさん!」
男の言葉を遮るように道の向こうでジルが彼の名を呼んだ。
ハールはその呼びかけに顔を上げる。
「私、ミストとあっち見て来ますからその辺で寝てちゃ駄目ですよ!」
ジルの隣でミストが一緒になって手を振っている。
「へいへい・・・・・・気ぃつけろよ」
「はぁい!」
男の言葉に女子二人は、笑顔で町の中心部へと駈けだして行く。
あのようなジルの素の笑顔は久しぶりな気がした。
やはり親友との再会は嬉しいのだろう。
ハールはそれを見届けると愛騎に寄りかかり、目を閉じる。
「・・・まだ、あいつがいる」
そう、一人ごちるように男は呟いた。


仲良さげに歩く二人組みが街を行く。
石になってしまった元住民達に遠慮しつつも食料を拝借して
戦いの準備を進めた。
敵は、何時襲ってくるのかわからないのだ。
「そういえば、ジルハールさんとはどうなったの?」
「ぶっ」
吹きそうになった。
「え?どうして・・・・・・?」
平静を装ってはいるが目に見えて慌てている。
そんなジルにミストはニッコリして言った。
「だって、好きなんでしょ?」
好き。
その言葉の意味を一瞬遅れて理解した時────
「そ、そんな・・・・・・」
「ジル顔真っ赤だよ〜」
ジルの顔は髪と瞳とに負けない位真っ赤だ。
「・・・・・・私ね、ボーレと付き合ってるんだ」
「え・・・・・・?
そうなの?」
驚いたようにジルが言った。
「ボーレってあんなでしょ?
いつも傷だらけで服ボロボロにしちゃうし。
私がいなきゃ駄目だな〜って」
そう言うミストは、笑っていた。
少し嬉しそうに。
ジルはミストの気持ちが解る気がした。
好いた相手といられる事は、幸せな事だ。
けれど、次の一瞬ミストの顔がかげる。
「・・・ジル、死なないでね?
まだ、聞いて欲しい事沢山あるから・・・・・・
ジルが好きな人の事も沢山教えて欲しいから・・・・・・
約束してね!」
生き残らないと約束は果たせない。
ミストが小指をジルに向けて突き出した。
「・・・・・・うん」
ジルがその小指に自分のそれを絡ませるとミストが微かに笑った。


二人には(もちろんレテも一緒に)是非生き残って、好きな人のこと恋のこと最近の出来事趣味のことたくさん話して欲しいです。

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