酒は呑んでも呑まれるな

ある夜のことである。
「ハールさん、飲み過ぎです」
と、いう言葉と同時にひょいと酒瓶は取り上げられた。
男はそれを持って仁王立ちをする恩師の娘を見上げる。
「なんだ、お前も飲むか?」
ジル、と続けると彼女は柳眉を逆立てて言った。
「飲みません!
明日は仕事なんですよ?!」
至極真っ当な答えだが、男はなんのことはないというように言葉を返す。
「飲み過ぎなけりゃいい。
お前もこないだ酒飲めるようになったろ?」
「それは・・・・・・そうですけど」
そう、つい先日ジルの誕生日がありもう飲酒をしても良い年だ。
「俺も一緒に飲む相手がいなくてつまんねぇんだ。
一杯だけ付き合えよ」
一杯だけ。
その言葉にとうとうジルも折れた。
「もう、一杯だけですよ?」
そう言って、彼女はハールがグラスに注いだ酒を呷り・・・・・・

「参った」
ハール男は一言漏らし、心底困ったように息を吐いた。
彼女が潰れるようならば、自分が寝室まで運んでやるくらいの気ではいた。
だが、実際はそうはならず・・・・・・もしかしたら、もっと危ない状態かもしれない。
「なにが参ったんですか?」
自分の腕に抱きついたままの彼女の言葉に彼はまた一つ溜め息をした。
参ったって、お前だ。お前。
「おいジル、もう飲むのやめとけよ」
「えぇ・・・なんで?」
アルコールの所為か彼女の顔がほんのり赤い。
思わずドキリとする表情に、だが硬い表情で応じる。
「飲み過ぎだ」
そう言って無理やりグラスと酒瓶を奪う。
相変わらずジルには抱きつかれており、不自由なことこの上ない。
腕に柔らかな感触があるが、これをハールは無視することにした。
こんなことになるなら、大人しく取り上げられていた方が数倍マシだった。
「ハールさんだって飲んでるじゃないですかぁ」
「わかったから。
わかったから、もう寝っから」
そう言って、立ち上がりのろのろと酒瓶などを片付ける。
そうして自分の寝室に向かうのだが・・・・・・目下の問題が一つ。
腕にしがみついている、コレだ。
「お前も自分の部屋行けよ」
「嫌ですぅ」
嫌だじゃない。
そう思いながら男は彼女、というか酔っ払いに問いかける。
「それとも何か?
俺と一緒に寝るつもりか?」
頼むから違うと言ってくれ。
そう願うが、願いは届かず彼女は本当に純粋な笑顔で答えた。
YES、と。
思わず彼は項垂れ、ジルに酒を飲ませたことを激しく後悔した。
今は亡き恩師に未婚の娘と臥所を共にしたなどと知られたら・・・・・・考えるだに恐ろしい。
夢に出てくるかもしれない。
恩師ではなく娘の父が。
「ほら連れてってやるから自分ンとこで寝ろよ」
そう言って体を運ぼうとするのだが、重い。
ただでさえ酔っ払っている人間は重いものなのに彼女自身が抵抗しているからだ。
・・・・・・勘弁してくれ。
「なんでそんなに俺と寝たがるんだよ」
ふと漏れた言葉にジルは顔を上げ、真っ直ぐと男の顔を見た。
「ねぇ」
今までと違う、不安が滲み出たような声音。
「私のこと、嫌い?」
「・・・・・・は?
なんでそうなるんだ」
「だって、だって・・・・・・一緒にいたくないんでしょ?
・・・・・・・・・・・・ハールさん、私のことどう思っているの?」
今までが嘘に思えるような真剣な問い掛けに彼は言葉を詰まらせる。
酔っ払いの戯言として、流して良いのだろうか?これは。
それとも、真面目に返すべきだろうか?
逡巡の後、男はジルの頭を気持ちを込めて撫でた。
「好きだな。
・・・・・・少なくとも嫌いじゃない」
こう言ってしまうのは、きっと自分も酔っているからだ。
「・・・ほんと?」
「嘘言ってどうすんだ」
そう答えると彼女は幸せそうに笑った。
言ってしまってから気恥ずかしくなって来たが・・・・・・もうどうにでもなってしまえ。
人間開き直りは肝心だ。
「今夜だけだかんな」
明日の仕事に響かなきゃ良いのだが。
この分だと二日酔いとか酷いのではないだろうか。
「はい、今夜だけ」
そんな嬉しそうに言うなよと寝室のノブに手をかける。
朝まで長い戦いになりそうだ。
これからを思うと男は溜め息を吐かずにいられなかった。

あ、添い寝ですよw一晩。
一度ネット上に上げて数分で恥ずかしくなり下げてしまった作品です。
どうせだから晒してみる。
皆さんはお酒は呑み過ぎないように!
酔っ払いはの相手は本当に大変ですからね。



あったら嫌なもしもの話

「参った」
ハール男は一言漏らし、心底困ったように息を吐いた。
彼女が潰れるようならば、自分が寝室まで運んでやるくらいの気ではいた。
だが、実際はそうはならず・・・・・・もしかしたら、もっと危ない状態かもしれない。
「なにが参ったんですか?」
「なんでお前そんな強いだよ・・・orz」

ジル→ワク

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