寝言

夜、ハールは一人目を覚ました。
いつもならばそう簡単には目覚めぬのにどうしたことだろう。
窓の外からは薄らぼんやりとした月が覗いている。
その月が照らしたのは、己の腕の中で眠る赤く長い髪の美しい女だった。
彼女は夢の中で、何か嬉しいことがあったのだろうか?
薄っすらと笑みを浮かべている。
「何か良いことでもあったか?
ジル」
男が気まぐれに言葉をかけた。
返事など寝ている人間に期待していない。
だが、彼女は寝言で律義に返してきた。
「仕事から・・・・・・ハールさんが、帰って来たの・・・」
その小さな声は、しっかりと男の耳に届いた。
自然と笑みが零れる。
なんと可愛らしいことを寝言で言うのだ、彼女は。
どうせなら素面の時に言ってくれ。
だが、もし起床している時ならば恥ずかしがって言わないだろうからこれは今だけ・・・自分だけの特権なのかもしれない。
男はそう思った。
「そんなに嬉しいのか?」
「・・・・・・うん」
仔猫のように体を摺り寄せながらジルが答える。
「大好き、だから」
何よりも、想いを込めた言葉。
彼女の頭にそっと大きな手が添えられ、その長く赤い髪を男らしい指が梳いていく。
寝言とはいえ彼女からの告白は存外ダメージが大きく、曰く・・・・・・
「反則じゃないか?
寝言でそれは・・・」
男の問い掛けも知らず向こうはすやすやと眠っている。
あの発言の数々は一体何だったのか。
もう、今夜は眠れないかもしれない。
「・・・・・・ま、お前の寝顔をずっと見てんのも良いかもしれんな」
夜は長いのだ。
それも良いかもしれない。
男は月明かりを背中に受けて小さく笑った。


反則的な寝言のネタはなんかよく妄想します。。。


「ジル、行って来る」
己の相棒である黒い飛竜に荷物を括りつけ眼帯の男はそう言った。
「はい、お気をつけて」
赤い髪を風に靡かせて女は言った。
荷運びでこれから行く先は帝都・シエネ。
さて、次に帰るのはいつの日か。
「ジル」
「はい」
「できるだけ早く帰る・・・・・・待ってろ」
いきなりの男の言葉に一瞬キョトンとする。
だが、次の瞬間嬉しそうに顔を輝かせる。
「はい・・・!
待ってます」
それを聞くと男は満足気にダルレカの地を飛び立った。

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