ジル幼少期捏造ネタにつき注意願います。。。


風になった日

ダルレカの大地に心地の良い風が吹く季節がやって来た。
その風は水と共に森や作物を育て、この地の人々に後に訪れる長い長い冬を越えるための恵みを与える。
青々とした葉を茂らせ、この地は1年のうちで最も生命力が溢れる季節を迎えていた。

この地は、かつて帝国でフィザット隊として名を馳せた竜騎隊が守る地でもあった。
彼らは腐敗する国を捨て、このデインへとやって来た。
この辺境の地へと左遷されはしたがその実力は健在である。
今日も見上げれば多数の竜騎士を空に見つけることができた。
その下で、幼い赤髪の少女がぺたんと地面に坐り込みその様子をじっと見ていた。
紅玉を思わせる瞳が必死にそれを追う。
そうしているうちに彼女はバランスを崩し、コロンと転がった。
「大丈夫か?
ジルお嬢さま?」
転がった彼女の顔を覗き込むようにしてよく見知った隻眼の男が言う。
その台詞に見る間にジルの頬が膨らむ。
「・・・・・・じるだもん」
「へいへいそうだったな。
ジル、大丈夫か?」
男がそう言いなおすと先ほどまでが嘘のように笑顔でうんと頷いた。
地面に転がると服が汚れるからそれまでそうすることはなかったが…
こうして見ると、なんと空は広いのだろう。
その広い空間で数騎が大きく旋回するのが見えた。
彼女が夢中でそれを見ていると男はその横に坐り同じ空を見上げながら問うた。
「好きか?訓練見んの」
「うん」
「そうか」
それからまた黙って二人は空を見た。
天馬のような優雅さはないが、飛竜の力強い動きはこれほど遠くからでも認められた。
「わたしも、飛べたらいいのに」
ぽつりと、少女が呟く。
「・・・飛べば良いんじゃないか?
親父殿に頼めばいいじゃないか」
娘のことを目に入れても痛くないほど愛している将軍のこと、彼女が頼みこめば許しそうなものだが。
「だって・・・ちちうえ忙しそうだし」
彼女なりに気を使ってるらしい。
まだ子供である彼女がそこまで気にすることでもない気がするが、その気遣いを無下にすることもないだろう。
「よし。
じゃあ俺が乗せてやるから、今から親父殿に了承もらって来い」
「ほんと?!」
ジルはが起き上がり瞳を輝かせた。
「嘘じゃないから早く行って来い。
じゃねぇと・・・寝ちまうかもな」
「うん!わかった!
わかったから寝ないでね!!
やくそくよ!」
そう言って、ジルはダルレカ城へと駈けて行った。

彼女が戻ったのは、それからしばらくである。
誇らしげな笑顔と共に父の許しを貰って来たのだ。
まぁ、相手が愛娘な時点で彼がその要求を飲まないことはないだろうとは思っていたが。
・・・・・・連れていくこちらとしては責任重大である。
「早く早く!」
ジルが男の服の裾を引っ張る。
「急かすなよ」
そう言いながらも苦笑を浮かべながら、相棒である飛竜の繋がれた竜騎舎へと到着すると手早く空へ飛ぶための用意をした。
男の前にジルが乗り込む。
不安定な竜の上で彼女は男の腕にぎゅっと掴まった。
あまり纏わり着かれるのも邪魔なのだが、これで安心するならばそれも良いだろう。
「ジル、飛ぶぞ」
そう短く言った次の瞬間、彼女を一瞬の浮遊感に包まれた。

耳元で風の唸りを聞いた。
足の下に何もない。
空の上なのだから当たり前なのに、その当たり前なことが恐ろしいように思えた。
恐怖から目は力いっぱいに閉じている。
「おい、ジル。
それじゃなんも見えないだろ?
目ぇ開けて周り見ろよ」
「・・・・・・怖いもん」
蚊の鳴くような声が風音にまぎれて辛うじて耳に届いた。
「怖くねぇさ。
・・・ほら、見てみろよ」
耳元で囁いてやり、紅玉色の目が薄く開かれた。

遠くに翠の山脈を望み、手前では夏の暑い日によく遊ぶ川が豊かな水を湛えている。
遥か地上では蟻の子のような人々が青々とした田畑で働く様子が見て取れる。
自分の住まう城も見えた。
心地の良い風が少女の頬を撫ぜる。
飛竜はどんどん上昇し、ついには雲の上にまで出てしまった。
もう、怖い、などという感情は消え去っていた。
雲を切り、空を翔ける自分は風のようだ。
「寒くないか?」
「ん、へーき」
もう腕にぎゅっとは掴まっていなかったが、彼がいる背中はとても温かかったから。
「そうか」
「・・・ねぇ」
「ん?」
「わたしも、竜騎士に・・・なれる・・・・・・かな?」
少女が振り返り、男の唯一つ残った目を見る。
「そう、だな。
・・・あまり勧めはせんが」
「その時はくんれんつけてね!きっとよ!」
「わかったからしがみ付くなって」
そうしてダルレカの空を、風は駈けて行く。



このジルを乗せてくれた某人は、何故訓練に参加してなかったんですか?

さぼr・・・・・・大人の事情です。

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