風邪

「ジル、お前顔赤くねぇか?」
ハールの言葉に、ジルは伏せていた顔を上げた。
「そんなこと、ないです!」
そう否定する彼女ではあるが、その顔は明らかに赤い。
男は彼女の返事に眉をひそめた。
「鏡見てから物言えよ。
風邪じゃないのか?」
そう言いながらジルのおでこに手を伸ばそうとするが、ジルはそれから逃げる。
「大丈夫ですから!」
そう否定し続けるジルにハールは一つ溜め息をすると逃げる彼女の体を捕まえ、自分のおでこを彼女のソレに押し付けた。
すぐ目の前、約数センチの距離にある男の顔にジルは一瞬動きを止める。
「・・・・・・熱い」
「微熱ですから、平気です」
近すぎる顔の位置に風邪などとは別にジルは顔が熱くなるのを感じた。
「お前はそう言って無理すんだろが。
今日は寝てろ」
「でも」
「無理して空元気出した方が迷惑だ。
・・・素直に甘えとけ」
男の言葉に少しして彼女は小さく頷いた。

ベッドに潜り込んで天井を仰ぐ。
彼女は小さく息を吐いた。
体調管理は今まで怠ったことはなかったが、最近はつい忙しさにかまけてしまっていた。
熱があることには気付いてはいたけどもそんな忙しい時に休む訳にはいかないと思ったのだが
「だめだな・・・」
ぽつりとジルは呟く。
迷惑だなんて、ちっとも考えなかった。
もう一つ更に息を吐く。
その時部屋の扉が開き、ハールが入って来た。
「具合はどうだ?」
「あ、はい。
大丈夫です」
起き上がろうとするジルを男が制止すると寝台の横に椅子を引き寄せ坐り、彼女の顔を見降ろした。
依然顔は赤みが差しており熱があるようではあったが大事はなさそうである。
「とりあえず今日一日は休んどけよ。
わかったな」
有無を言わさぬ様子にジルはこくりと頷く。
すると男は彼女の顔にかかる髪を払い、優しく撫でた。
「あの、ハールさん」
彼女が申し訳なさそうに声をかけた。
「なんだ」
「お仕事は、どうしたんですか?」
「お前が寝たら行くから心配すんな。
さぼりゃしねぇよ。
・・・なんか欲しいもんあるか?」
男の問いにジルは少し考えたのち飲み物が欲しいと、小声で答えた。
すると彼はわかったと一言言って部屋を出て行き、しばらく扉を注視しているとマグカップを持って来た。
「ホットミルクで良かったか」
「はい」
起き上がってマグカップを受け取り、それに口付ける。
暖かくて甘い。
「美味しいです」
「そうか」
男が微かに笑った。
つられてジルも笑う。
そういえば最近こんなゆっくりとした時間なんて、ほとんどなかった。
時間に追われていたような気がする。
「お前最近根詰め過ぎだったからな。
言い方が悪いが風邪ひいてよかったかもしれんな」
「そう・・・ですね。
なんか、こうやってハールさんとゆっくりするのって久しぶりな気がします」
「そうか?」
もう一口とミルクを飲み込む。
口元が緩む。
ホットミルクを飲み終えたジルのおでこに男の大きな手が触れた。
「ハールさんの手、気持ちいい」
ふと漏れたジルの言葉に手は一瞬止まり、また優しく彼女に触れる。
「しばらくこうしててやるから、早く寝ちまえ。
明日からまた忙しいからな」
「・・・・・・はい・・・」
ホットミルクのせいか、彼の手のお陰か急な眠気が襲ってきた。
もっとずっと触れていて欲しいと思いながら、彼女は目を閉じた。


皆さんは風邪に注意して、うがい手洗い適度な休息を取らなきゃダメですよ!

inserted by FC2 system