セルビアの昔話 いちばんたいせつなもの 後半部が元ネタ
「・・・ハールさん」
ある夜、うとうととしていた時ほんのりと顔を赤くしたジルが身を縮こませながら男の横に坐った。
「なんだ、どうしたんだ?
ジル」
ハールが頭を掻きながら娘の様子をみると、ジルは顔を俯いていた。
何かしら言おうとはするのだがなかなかそれが言葉にならない。
「あの・・・」
彼は黙ってその言葉を待つことにした。
普段あまり口ごもったりしない彼女がこうまでなるということは、きっとそれ相応に大変なことだろうから。
やがて決意を決めたようで、ジルは深く深呼吸すると徐に口を開いた。
「・・・結婚、してください」
一世一代の告白に彼女はぎゅっと身を瞑った。
どんな返答があるだろう――――怖い。
「ジル、お前・・・・・・それがどういうことか、わかってるのか?
苦労すんのはお前だぞ」
「わかってます・・・それでも・・・・・・一緒にいたいんです」
わずかに潤んだ紅玉色の瞳が、男を見詰めた。
「・・・その目にゃ・・・・・・弱いな」
「え・・・・・・それじゃあ…!」
「だがもしお前が出てけっつったら
一番大事なもん勝手に持ってくからな」
「出てけだなんて…私、絶対言いませんよ」
こうして二人は結婚し仲良く暮らしましたが、そんなある日ジルはハールにもの凄く腹を立てて言った。
「もう、出てってください!」
理由はとても些細なこと、けれどどうしても相手の顔を見ていられなくなってしまったのだ。
「…わかった」
ジルの体が微かに動く。
「その前に、もう一泊だけ…ここに泊っていいか?」
男がそういうと彼女は力いっぱいに声を張り上げた。
「勝手にしてください!」
そうしてジルはハールがもう一晩だけ泊まることを許し、最後の夕飯を共にした。
その際ハールはジルが普段飲まない酒を勧め、晩、ジルはぐっすり眠ってしまった。
すると彼は彼女を抱きかかえ、荷運びの事務所に運んだ。
明朝、ジルが目を覚ますとそこは見慣れた自室ではないので驚き飛び起きる。
「起きたか?
あと、ここは事務所な。
わかるか?」
男の声に振り向くと、ハールが戸口に立っていた。
「どうして、私ここにいるんですか」
「俺が運んだ」
すぐに返された答えは更に彼女を混乱させる。
「え?なんで…
私……出てってくださいって…言いましたよね?」
女がそう言うとハールは彼女の横に坐り、その顔をまっすぐに見る。
「約束覚えてるか?」
「約束……ですか?」
「お前が出てけと言ったら、一番大事なもんを持ってくと言ったな」
それから彼は、わずかに視線を逸らして続けた。
「俺は一番大事なもんを持って来ただけだ」
それを聞いたジルは、黙って彼を抱きしめた。
そしてその手を取って館に帰って行った。



ものほんあらすじ
昔、その日の食べ物にも困るような貧乏なきこりと神様から知恵と勇気を授けられた娘がいた。
ある日王様に無理難題をふっかけられたきこりは娘の知恵のおかげでそれらをやりすごす。
そんな娘に興味を持ち面会を求め謎かけをするが、あっさり答えられてしまう。
それで娘が気に入った王様はその娘を娶ることにする。
しかし娘は条件として出てけと言われたら一番大切なものをどれでも持ち帰っても良いという約束を取り付ける。
しばらくは仲睦まじく暮らすが、ある日王様が娘にひどく腹を立て「出てけ」と言う。
だがその前に一晩泊めて欲しいと娘が言うのでそれを許し、娘に勧められるまま酒を飲み眠り込む。
その間に娘は馬車を用意し、王様をその馬車に乗せ自らの生家に運ぶ。
目を覚ました王様は怒り、何故自分をこのようなみすぼらしい場所に運んだのか尋ねる。
すると娘は頬を赤く染め「私は一番大切なものを持ち出しただけです」と言う。
それを聞いた王様は黙って娘の頬にキスをし、その手を取って城への帰路に着く。


ほっぺにキスは恥ずかしいです、先生。
加筆修正版
「・・・ハールさん」
ある夜、うとうととしていた時ほんのりと顔を赤くしたジルが身を縮こませながら男の横に坐った。
「なんだ、どうしたんだ?
ジル」
ハールが頭を掻きながら娘の様子をみると、ジルは顔を俯いていた。
何かしら言おうとはするのだがなかなかそれが言葉にならない。
「あの・・・」
彼は黙ってその言葉を待つことにした。
普段あまり口ごもったりしない彼女がこうまでなるということは、きっとそれ相応に大変なことだろうから。
やがて決意を決めたようで、ジルは深く深呼吸すると徐に口を開いた。
「・・・結婚、してください」
一世一代の告白に彼女はぎゅっと身を瞑った。
どんな返答があるだろう――――怖い。
ハールは行き成りのことに目を見開いた。
「ジル、お前・・・・・・それがどういうことか、わかってるのか?
苦労すんのはお前だぞ」
そうだ、もうすでに彼女は領主としてその地位を引き継いでいた。
ならばその地位に見合うそれなりの男を探した方が良いに決まってる。
ただの荷運びは彼女の手助けにはならぬだろうし、周囲の風当たりもあるだろう。
「わかってます・・・それでも・・・・・・一緒にいたいんです」
わずかに潤んだ紅玉色の瞳が、男を見つめる。
「お前な、子供か?」
彼はふと笑う。
「子供じゃありません!」
口を尖らせて彼女が抗議する。
だが、それはまさに子供のソレに似ていて。
「ハールさん笑わないでください!・・・・・・もう」
「そうは言ってもな」
これ以上彼女を怒らせぬためにも、笑いそうになる口をなんとかせねばならないようだ。
今や彼を見つめていた瞳は怒気を孕みつつある。
「子供扱いなんか、しないでください」
自分はもう成年していて、子供ではない。
年齢だけならば男と対等の大人だ、そう・・・思いたい。
「よちよち歩きの頃からこっちはお前のこと知ってんだ、諦めろ」
「でも」
あっさり返された言葉に彼女は口を開く、だが更に男は続ける。
「ま、こんな奴に惚れちまったらしょうがねぇな」
一瞬、ジルが呆ける。
この男は一体何を言ったのか。
同じく現代語を話しているはずなのに、言葉が呑み込めない。
「え・・・・・・あの・・・?」
「だがもしお前が出てけっつったら
俺の一番大事なもん勝手に持って出て行かせてもらうからな」
やっとその言葉の意味を飲み込んだにジルは即座に反論した。
「出ていけだなんて・・・私、絶対言いませんから!」
「わかったから、これは聞いとけ」
それでもその約束を飲んで、二人は無事に結ばれたのだった。

こうして二人は結婚し仲良く暮らしていたのだが、そんなある日ジルはその一言を発してしまう。
いつもだったら軽く流せたはずの行為に。
「もう、出てってください!」
理由はとても些細なこと、けれどどうしても相手の顔を見ていられなくなってしまったのだ。
彼女の言葉にしばらく黙った後、小さく彼は答える。
「・・・わかった」
ジルの体が微かに動く。
「だがその前に、もう一泊だけ・・・ここに泊っていいか?」
男がそういうと、その顔を見ずに彼女は力いっぱいに声を張り上げた。
「勝手にしてください!」
そうしてジルはハールがもう一晩だけ泊まることを許した。
最後の夕飯を共にしても交わす言葉は少なかったが、その席でジルはやたら酒を勧められ・・・・・・やがて彼女は深い眠りの世界に落ちた。
明朝、ジルが目を覚ますとそこは見慣れた自室ではなかった。
驚き彼女は飛び起きる。
まだ頭が覚醒していないのか、自分が何処にいるのか全く分からない。
「起きたか?」
男の声に振り向くと、ハールが戸口に立っている。
「ここは事務所な。
わかるか?」
彼の言葉に言われてみれば、確かに・・・とジルは周りを見回した。
かつて共に暮らした、荷運びの事務所。
「どうして、私ここにいるんですか」
「俺が運んだ」
すぐに返された答えは更に彼女を混乱させる。
「え?なんで・・・
私・・・・・・出てってくださいって・・・言いましたよね?」
女がそう言うとハールは彼女の横に坐り、その顔をまっすぐに見る。
「約束覚えてるか?」
「約束・・・・・・ですか?」
「お前が出てけと言ったら、一番大事なもんを持ってくと言ったな」
それから彼は、わずかに視線を逸らして続けた。
「俺は一番大事なもんを持って来ただけだ」
それを聞いたジルは、黙って彼を抱きしめた。
そしてその手を取って二人で館に共に帰って行ったのだった。

これを修正しながら、ドラクエの「勇者の挑戦」やら「おおぞらにたたかう」やらを聞いてました。
・・・・・・何と戦ってんだ、お前は。

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