欲しいもの

それはまだ仲間がレオナルドしかいなかったある冬の日の事・・・・・・

「なぁ“くるしみます”って何だ?
おれ毎年思うんだけどさ」
「・・・“クリスマス”だろ」
日も当たらないデインはネヴァサの汚い路地で会話が聞こえた。
少年が二人会話をしているようだ。
「そうそう、それそれ。
この季節になるとなんかにぎわうんだよな、町中が」
少年──エディは相棒であるレオナルドに尋ねる。
エディは最初から路地で暮らす身分の者だが、レオナルドは元は貴族の出だった。
だからエディの知らない事もレオナルドはよく知っている。
譬えば自己流で剣を振るっていたエディに兵法の基礎を教えたのは彼だ。
「昔の偉い聖人の生誕祭だよ」
ちなみに便宜上レオナルドは生誕祭と言ったが実際には聖書にそのような記述はない。
「ふ〜・・・ん」
よく解ってないらしいエディの返事にレオナルドは笑いながら続ける。
「まぁ、今じゃ宗教的な意味も薄くなってるけどね。
聖ニコラスが出て来てからは“相手にプレゼントをあげる日”かな、ほとんど」
「聖ニコラス?」
「サンタクロースだよ。
知らない?」
言いながらレオナルドは昔を思い出す。
赤々と燃える暖炉に、母特製の手料理にケーキ。
それを兄と取り合い食べて、父と母からプレゼントを貰いそしてあたたかなベッドで幸せな夢を見るのだ。
・・・もう、そのような夜を過ごすことはないだろう。
「えと・・・もしかして赤い服着たじいちゃんか?
たまに看板とかにかいてあんの」
「うん、その人」
やっと思い至ったらしいエディにレオナルドは頷いた。
クリスマスも近付けば町も装いを変える。
クリスマスという行事そのものを体験したことはなくとも、そういったものを目にする機会はあったのだろう。
「そっかぁ。
あれがサンタクロースか・・・」
妙にしみじみと言うエディにレオナルドは一つの問いをした。
「エディは何か欲しい物ある?」
彼が今までクリスマスというものをしたことがないならば、それをやってあげたいと思った。
自分の記憶の中のそれはとても楽しくて幸せで、エディにもそれを教えたいと思った。
けれどその問いに彼は首を横に振る。
「おれ、別に欲しい物はないだ・・・・・・けど、強くなりたい。
んで、ベグニオンの奴らをぎゃふんと言わせてやるんだ!」
レオナルドは目を見開く。
過去を振り返る自分に対し、エディの双眸は未来を見ている。
「おれは、サンタクロースなんかに頼らないよ。
おれはおれ自身の力で強くなって、あいつらからデインを守るんだ!」
そう言う彼の言葉には彼なりの決意が感じられた。
「だから」
エディはそのまま続ける。
「これからもそのために色々教えてくれよ。
・・・なんかおれ、教えられてばっかだな」
そう言って少年は笑った。
それにレオナルドは先程とは違う笑いを浮かべ口を開く。
「そんなことないよ」
サンタクロースもきっとこの友人には敵わないだろう。
レオナルドはふとそう思った。

去年(07年)に書いた話を少し直しました。
友情物も好きなのでまた書きたいです。
ちなみに、本文の聖書に誕生日の日付が書いてないのは本当らしいです。
元々はミトラ教の太陽神が石から生まれた日だそうで。
クリスマス当日にでも話の種にして下さい。

※油を注がれた者
なんかユダヤ人でいう救世主がそういう意味らしいです。
※聖ニコラス
サンタクロースの元ネタ。

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