理由

「おまえは、何のためにコソ泥なんかやってんだ?」
今日の稼ぎを数えていたヘザーは男の問いに顔を上げた。
男よりは可愛い女の子の方が顔も名前も覚え甲斐があるが、それでも一応味方のベオクの顔は全員知っていた。
この男、シノンと出会ったのはラグズ同盟でだ。
そこで彼は傭兵として雇われていて、色々あって共に戦場に立つことも多い。
顔を合わせれば挨拶くらいはする仲ではある。
「なによ、藪から棒に」
「おまえほどの女なら、他にいくらでも稼ぎ手はあんだろ」
彼女は、ふむと考えた。
話しても良い相手だろうか。
不用意に他人に話す人間ではないとは思うが・・・・・・というか何故急にこんなことを聞いてきたのだろう。
「なんであなたに話さなきゃいけないのよ」
普段からそれほど親しくない間柄だ。
もちろん他の男性陣よりは接点があると思ってはいるが。
「正直オレは、誰が生きようが死のうが何しようが興味はねぇんだが」
「だが、なによ」
早く会話を終わらせて、今日の稼ぎを帳簿につけたいのに。
そう思いながら次の言葉を促した。
「おまえ、この前泣いてただろ」
思わぬシノンの言葉に彼女は目をぱちくりとさせる。
「・・・・・・それ、誰かに言った?」
「ケッ、女の涙を酒の肴にしろってか」
その言葉に安心したようにヘザーは安心したように息を吐いた。
ただでさえこの男に泣き所を見られて嫌だっていううのに、この上軍全体に広まっては盗賊ヘザーの名前が泣く。
「話したくなきゃ良いけどよ。
聞いてやらなくはねぇぜ、おまえは1人じゃ見てらんねぇからよ」
「何よそれ」
男の言い様にヘザーは可笑しくなって微かに笑った。
少なくともいい加減な理由で聞いた訳ではないようだし、既に恥を見せているのだ。
――毒を食らわば皿までである。
「・・・・・・母さんがね」
おもむろにヘザーが語り始める。
「重い病気で、今すぐお金が必要なのよ」
彼は何も言わない。
「最初は真面目に働いてたんだけど、どんなに頑張っても小金にしかならなかった。
父さんがいたら良かったけど、私の小さい頃に死んじゃったしね」
父の思い出はない。
なんとなく優しかった気もするし、そうでなかった気もする。
母は父のことをあまり話したりはしないが時々自分を通して誰かを見ているようなことも少なからずあった。
「その頃からよ。
私が盗みに手を出し始めたのは。
それまで丸1日真面目に仕事をしてやっともらえていたお金が、
ちょっと間抜けそうで貯め込んでそうな奴の財布を一度掏っただけで手に入っちゃって
真面目にやってた自分が馬鹿みたいだった」
「で、泣いてたのは何だったんだよ」
「それは・・・・・・ほら、一応泥棒って言うと世間体に悪いじゃない?
母さんに言っても心配させてもっと病気を悪化させたら事だもの。
知り合いにも母さんにも今の仕事のこと正直に言ってなくて・・・・・・それでこの前母さんから手紙が来て・・・
一応メリオルで働いてるって設定だからそっちに届くんだけど女王様に頼んでこっちに送ってもらってるの。
そしたら、風邪引いてないかとか悪いお客に絡まれてないかとかそんなこと書いてあってさ。
・・・・・・涙出ちゃった」
ヘザーが目元を拭う。
二度までもこの男に涙を晒すとは、不覚だ。
「お前、足洗えよ」
不意にシノンが言った。
「この戦いが終わったらコソ泥から足洗うんだな。
んでお袋にでも孝行するこった」
「やめられるもんならもうやめてるわよ、だいたい」
言葉の途中で何か投げつけられた。
袋に入れられているが、これは・・・・・・
「ちょっと、シノン!」
「いらねぇからとっとけ、オレはまた酒でも呑んでくら」
「待ってってば」
ヘザーがどんなに呼びかけても男は振り返らず、ただ手をひらひらと振るだけだった。
彼の姿が見えなくなってから、彼女は袋の中身を取り出す。
それは、見事な宝玉だった。
「・・・・・・礼くらい言わせなさいよ、馬鹿」
だから男は嫌いだと、ヘザーは独白した。


捏造カプ、シノヘザでした。
ヘザーさんの設定はこれまた捏造が多いです。
宝玉は・・・・・・まぁ弓のお金だとでも思ってください。
武装解除をいつもシノンさんに持たせてるのでいつもこの二人組にしており、そのせいでいつも私のデータだと支援Aです。
ヘザーさんが女の子大好きなのは重々承知しているのですが、シノンさんみたいに黙って傍にいてくれそうな男性も良いのではないでしょうか?
でも女の子に囲まれて幸せそうなヘザーさんも好きだ。。。

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