追憶

小さい頃、お前はいつも俺の傍にいたな。
俺はお前の兄貴になったような気分で
少しだけ鼻が高かった。
なぁ・・・・・・あれからどれだけ時間が経ったろうな。

故郷の町角は、往来する人間が変わっただけで
他は変わりないようだった。
古い道も建物も、俺以外はなんら変化はなかった。
強いてあげるとすれば、少し建物が増えたくらいだろうか。
昔の記憶をたよりにそこの角を曲がると
幼少の頃を過ごした教会があった。
こじんまりとして少々小汚い、これも昔のまんまだ。
教会の庭で、女性と子供がはないちもんめをしている。
自分も子供の頃は幼なじみの少女にひっぱられてよくやった。
この歌が実は人身売買を歌ったものだと初めて聞いた時、酷く驚いたのを
良く、覚えている。
「まぁ、ブラッド」
女性がこっちに気付いて俺の名を呼ぶ。
「ローラ、戦争以来だな」
「そうね」
毒気を抜かれるような笑みに俺はやっと、帰って来たと思った。

教会の外では、相変わらず子供達が遊んでいる。
今度は、鬼ごっこのようだ。
「ブラッド、久しぶりだね」
「司祭様、久しぶりです」
捨てられた俺の親となってくれていた司祭様は
寝台から一人で起き上がるのが難しくなっていた。
「私も、すっかり老けこんでしまったよ」
それでも優しい笑顔は少しも変わらないで、懐かしく感じた。
「ベグニオンでは、良くしてもらっているかい?」
「・・・・・・んまぁ、邪険にされることもないし・・・・・・
でも、やっぱり俺の家はここだって今でも思いますね」
「ローラもいるしね」
俺は、その言葉に顔を赤くしなかっただろうか?
司祭様は、ただ笑っているだけだった。

「戦争が終わって、女神様が消えてしまったと聞いてから
司祭様、すっかり弱ってしまって・・・・・・」
「・・・・・・そうか」
いつか小さい頃は、司祭様が自分よりずっと大きく思っていた。
なのに、俺が部屋を出た時は酷く小さく・・・・・・
「ねぇ、ブラッド。
私は、誰に祈りを捧げればいいの?」
ローラの顔は、不安で仕方ないと言っている。
なのに、俺は答えるべき解答を知らない。
いや、女神は完璧ではなかったじゃないか。
祈るべき対象は、戦の前にも後にもいなかったんだ。
「・・・・・・ごめんなさい、きっと誰にもわからないことなのに」
「いや、・・・・・・ごめんな。
ずっと一人にして」
「え?」
「今日来たのは、今度から俺この町で衛視を
することになったっていうのを言うためなんだ」
「本当?ブラッド」
「嘘を言ってどうするんだよ」
「そうね・・・・・・そうよね。
でも、ベグニオンの御両親は了解しているの?」
ローラは心配顔だがその辺りも問題無い。
「実は、これはミカヤ女王と妹君の皇帝陛下が取り計らってくれたことなんだ。
両国間の交流のためだ、ってな」
ローラの唇がじゃあ・・・・・・と、言葉を紡ぐ。
「これからは、傍にずっといてくれる・・・・・・の?」
「ああ」
子供の頃、ローラと俺の視線の高さはそんなに変わらなかった。
どれだけの時間が、あれから流れたんだろうな?
「ブラッド・・・・・・おかえり」
「ただいま」
それから二人で俺達は笑いあった。


ブラロラも好きです。
司祭様がどんな肩かは存じませんがなんか優しそうなイメージあります。
ただいま、おかえりってなんか良いですよね。

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