いつかの花嫁

遠い遠い街から、教会の鐘の音が聞こえた。
――――結婚式だ。
嗚呼、きっと純白の二人が多くの人々に祝福されていることだろう。
まるで、死に装束のような白いドレスで・・・・・・
リザは今日、休暇だった。
だから普段ゆっくりかまってやれない分ブラックハヤテ号と散歩してやろうと思ったのだ。
主人の歩みが止まり、ブラハは不思議そうに小さく鳴いた。
「あ・・・ごめんなさいね、ハヤテ号」
再び歩みだすが、未だ鐘の音が耳に残っていた。

昔、誰かから訊かれたことがあった。
『ホークアイ中尉は、ご結婚とかされないんですか?』
訊かれて浮かんだのは、焔を秘めた目。
『・・・いいえ、ほら大佐のお守りもしなくちゃならないし・・・・・・そんな暇ないわ』
『中尉、美人なのにもったいなぁい』
周りの声にリザは曖昧に笑って応えた。
こんな時、笑顔は便利だ。
皆簡単に誤魔化されてくれる。
だからその後、再び彼女に結婚の話題が振られることはなかった。
「(興味がないかと言えば・・・・・・嘘になるわね)」
これでも幼い頃は甘い夢を抱くただの女の子だった。
だが、今・・・・・・自分にはしなくてはならないことがあって
守るべき人がいて・・・・・・そんな考えを持つ暇がなかった。
血の河、泥の河・・・どれだけの死を自分は与えたのだろうか。
そしてあの人は。
幸せになるにはあまりにも罪深い人間のように自分自身が思われた。
そんな自分が結婚するとしたら・・・・・・
「ハネムーンは、地獄かしら?」
思わず笑ってしまう。
そんな遥かな未来を、しかも死出の道程をこんなにも楽しく思ってしまうことに。
望みとあらば地獄まで。
そう誓った言葉を、まだ彼は覚えているだろうか。
そう、何処までも着いて行くから。
「でも・・・いつか、夢を見て良いのかしら」
純白の衣装を着て、貴方の隣を歩ける日を。


この二人には幸せになって欲しいです。
全てが片付いたら、信じてもいいのでしょうか?

inserted by FC2 system