ただいま

世界を救った。
導かれし仲間たちは、皆それぞれの故郷へと帰って行く。
僕には・・・・・・誰もいない。
魔物に滅ぼされた、彼女と共に過ごした名もない小さな村。
目をつむれば思い出す、村の皆の笑顔彼女の言葉。
やっと帰ってきたその場所には、かつての面影はない。
あのいつも彼女が横になっていた丘も、毒の沼に変わり果ててしまった。

『シエロ、大好きよ』

あの日、そう言ってくれた彼女に・・・結局何も僕は言えなかった。
ああ、失って初めて理解した痛み、僕は・・・・・・彼女が好きだったんだ・・・
大好き、だったんだ・・・・・・
荷物入れから古ぼけたはねぼうしを取り出す。
彼女が存在した、唯一の証。
それをそっと抱きしめた。
「――――シンシア」
涙が、こぼれた。
世界を救っても・・・・・・君も、誰も・・・いないじゃないか。
次の瞬間、光が溢れた。
毒の沼は消え去り、次々と花が咲いていく。
そして・・・・・・奇跡としか言いようのない光景。
「ああ・・・」
もっと、君の顔が見たいのになんでこんなに歪んで見えるのだろう。
「シエロ、おかえり」
はねぼうしが手から滑り落ちる。
これは、夢だろうか?
いや、夢でもかまわない。
他の誰よりも、彼女に・・・・・・会いたかった。
「どうしたの、シエロ。
わたしの顔に何かついてる?」
言葉にたまらなくなって、駆け寄って強く抱きしめる。
これが夢だと言うならば、なんてリアルな夢だろう。
匂い立つ花のような香り、温かな身体・・・・・・
「・・・・・・これは、夢かい?」
「夢な訳ないでしょ。
ほら、帰って来たらなんて言うの?シエロ」
僕にも、帰りを待ってくれる人がいた。
そんなことが、単純に嬉しい。
「ただいま、シンシア」
あの日と同じ風が僕らを包んだ。


4主にはずっとはねぼうし持たせてました。
形見を売れるわけないじゃないか・・・!

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